メディア担当の方
パイナップルはどのようにできるかご存じですか?
実はパイナップルは栽培から収穫までの工程の多くで、機械ではなく人の手を介す「手仕事の果実」です。
ここではその一連の流れをご紹介しますが、その前に少しだけ小話を。
パイナップルは定義によって、果物と野菜のどちらにも分類されうることは意外と知られていません。
樹木に実をつけると思っている方は間違いで、正しくは土に植えた植物から結実するため、その観点では野菜に分類されるのです[1]。しかし、パイナップルの植物は多年生で発芽から枯死までが1年で完結しません。これは果物の定義の1つに当てはまります。
以上のように、パイナップルは野菜や果物の定義を越えた不思議な存在とも言えます。
そういえば、見た目もちょっと不思議ですよね。アメリカ先住民の人々の間では、ホスピタリティを表すシンボルとして親しまれていたそうですが、それもきっと不思議なその外観と関係しているのでしょう[2]。
では、ここから栽培から収穫までのお話を進めていきます。
パイナップルの栽培サイクルは3年周期です[3]。
原則的には、1つの苗から収穫できるのは2回のみ。植付から1年後の強制開花を挟み、実に18カ月間太陽の恵みを受けた後に1回目の収穫のときを迎えます。そのさらに32カ月後に、二番果と呼ばれる2回目の収穫を行います。
収穫の度にとれる実が小さくなるため、二番果の収穫を終えたタイミングで、次の苗を植えるために畑を一定期間休ませます。
このように、植付から次の植付までが約3年で循環しているのです。
苗はクラウンと呼ばれる。
実のいちばん上から出てくる芽を使用します。
植付から約1ヶ月。
そもそもパイナップルの苗とはどういったものか?
皆さんもご覧になったことがあると思うのですが、スーパーで見かけると実の上に緑の芽が伸びていませんか。あれはクラウンと呼ばれる芽で、植付苗として用いられています[3]。
クラウンを土壌に1本1本等間隔で植えていくところから、栽培サイクルが回り始めるのです。植付も手仕事が担う部分が大きい仕事の1つです。
さて、先程少し触れましたが、パイナップルの果実は多年草に実ります。
長くて1~2mに及ぶ繊維質の細い葉が放射状に生えた後に、1本の茎が伸びてくるのが特徴[4]。その先端に約150個もの小さな花が螺旋状に着生し、表面に小果と呼ばれる実を結びます[5]。それらが、表面を覆う、亀の甲羅のような六角形模様の部分になるのです。
つまり、パイナップルは小果が150個ほど集まってできた集合花であり、私たちが普段食べているのは花托(かたく)と呼ばれる花の根元の部分が集まって大きくなった部分だったのです[4]。
余談ですが、パイナップルの果実にはブロメラインと呼ばれるタンパク質分解酵素がたくさん含まれています[6][7]。
ブロメラインには、肉の消化を促す作用があります。なぜパイナップルに多く含まれているかは諸説あり、明確な理由は分かっていません。一説には、パイナップルの実が動物に食べられたときに、体内で種子が消化されるのを防ぐためという説があります。つまり、タンパク質を分解する酵素があることで消化を促し、種子が早く体外に排出されるようにしているということです[6]。
植物の生存戦略には目を見張るものがありますね。
ちなみに、酢豚にパイナップルが入っているのは、肉を柔らかくし、消化を促進するブロメラインの作用を考えると理にかなっているわけです。
アメリカの先住民はパイナップルをホスピタリティのシンボルとしてだけでなく、消化器系の病気のときにも用いていたそうですよ[8]。
植え付けから約18ヶ月。
パイナップルは収穫の時期を迎えます。
話を戻しますが、農園では結実に至るまでの時間を手間暇かけて育てます。
それほどまでに大切に育てられる理由の1つとして、パイナップル栽培における「ある特徴」が挙げられます。それは、長い年月をかけて育てても、1つの苗にできる実はたった1つ、という特徴です[9]。
そのため、苗を無駄にしないために、そこにかけられた時間を無駄にしないように、細心の注意を払いながら1つ1つ大切に育てられるのです。
収穫は朝と夜のグループに分かれて行います。
さて、そうしていよいよたどり着いた収穫の時期。
「1つの苗に1つの実が結ぶ」ことに加えて、パイナップルは「追熟しない」という特徴も持っています
[10][11]。
つまり、収穫後に一定期間置いても熟しません。これは、収穫後に果実の中で分解されて果糖になるデンプン質が少ないことが理由です。
要するに、収穫時点で甘さがほぼ決まるのです。
これは収穫時に1つ1つベストなタイミングを見極めなければいけないことを意味しています。実際に収穫期には、農園に広がる数千個にも及ぶパイナップルの果実を人の目で1つ1つ見て回ります。手には厚いグローブを付けて、一列に並びながら、最適に熟したパイナップルの実を専用のブーム付き収穫機を使って手作業で収穫していくのです[9]。
すべての実が同時にベストなタイミングを迎えるわけではないため、この作業は朝と夜のグループに分かれて数週間続きます[9]。
忍耐と情熱に支えられて収穫されたパイナップルは、こうして世界中へと飛び立っていくのです。
さて、ここまで栽培と収穫のプロセスを見てきていかがでしたでしょうか。
いつものスーパーに並ぶパイナップルは、多くの人の手を介した先に私たちの食卓に届いていることが、少しお分かりいただけたのではないでしょうか。
パイナップルのあの独特でジューシーな甘みと酸味は、高度な知識が必要な「手仕事」から生まれているのです。
〈参照・参考〉
[1]農林水産省 果樹とは
[2]ジャン=リュック・トゥラ=ブレイス. イラストで見る 世界の食材文化誌百科. 原書房, 2019, 244p.
[3]株式会社ドール資料 Fresh Pines Harvesting Operation
[4]佐竹元吉, 黒栁正典, 正山征洋, 和仁皓明. 健康・機能性食品の基原植物事典. 中央法規出版, 2016, 912p.
[5]The ASEAN Indigenous Raw Materials Exhibition 2007
[6]株式会社ドール パイナップルに含まれる栄養について
[7]井上浩. [寄稿]ブロメライン雑感. 南方資源利用技術研究会誌. 1991, 7(1), 35-37.
[8]厚生労働省eJIM WEBサイト
[9]株式会社ドール WEBサイト
[10]株式会社ドール パイナップルマニュアル
[11]旬の食材百貨
大手広告情報媒体企業勤務後、植物から特定成分を抽出しサプリメント会社に素材提供する食品メーカーに転職し、植物の持つ機能性成分に感動し多くを学ぶに至る。
しかし、ヒトの健康はサプリメントだけでは叶えられないと知り、健康に良い野菜作りを目指し、もやし・スプラウトの栽培企業に転職。低利益率のもやし業界に旋風を巻き起こす、日本初の機能性表示野菜第一号の「大豆イソフラボン子大豆もやし」を世にリリース。
この経験をもとに、生鮮野菜や果物の機能性表示届出をコンサルティングする技術を身に着け、2019年3月「野菜で健康研究所株式会社」を立ち上げ、全国の野菜生産者や業界団体に対しコンサルティングを行う。
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大手広告情報媒体企業勤務後、植物から特定成分を抽出しサプリメント会社に素材提供する食品メーカーに転職し、植物の持つ機能性成分に感動し多くを学ぶに至る。
しかし、ヒトの健康はサプリメントだけでは叶えられないと知り、健康に良い野菜作りを目指し、もやし・スプラウトの栽培企業に転職。低利益率のもやし業界に旋風を巻き起こす、日本初の機能性表示野菜第一号の「大豆イソフラボン子大豆もやし」を世にリリース。
この経験をもとに、生鮮野菜や果物の機能性表示届出をコンサルティングする技術を身に着け、2019年3月「野菜で健康研究所株式会社」を立ち上げ、全国の野菜生産者や業界団体に対しコンサルティングを行う。
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