メディア担当の方
人間とバナナは長いおつきあいをしています。
ところで、いま私たちが食べているバナナ、タネがないことを疑問に思った方はいますか?
実はその「タネがない」ことこそが、人類とバナナの関係のはじまりと無関係ではないのです。時計を
紀元前7千年~1万年まで巻き戻してみましょう[1][2]。
その当時のバナナには実はタネがあって、果肉の部分にたくさん黒い粒々が詰まっていました。しかし、遺伝子に突然変異が起こり、タネなしバナナが突如この世界に誕生します。
植物としては欠陥ですが、人間にとっては、食べやすさや可食部分の多さなど、都合のよいことがたくさんありました[3][4]。そのため、タネなしバナナの苗を人々は大切に育て、栽培して、それが定着していったのです(いまでも、フィリピンなどには野生のタネありバナナが残っているそうです[5])。
つまり、いま私たちとバナナの関係も「偶然」生まれたのです。ちなみに、バナナを食べていると見かける小さな黒い粒のようなものがタネのなごりです[4]。
さて、この「タネがない」事実は、これからご紹介するバナナの栽培のお話に繋がっていきます。
タネがないのにどうやって増やしていくの?という疑問が浮かんできませんか。
ドールが行っている「断続栽培」を行うには、新しい苗が必要となります。ドール育苗センターでは、健康で元気に成長し、形の良いバナナを実らせる苗を育てています。植付けを定期的に実施することで、収穫時期を計画することも可能になります。
それでは、タネの代わりに使われる「苗」のお話から始めていきましょう。
バナナは親株の根元からニョキっと出てくる新芽を株分けして栽培しています[6]。親株はバナナが実を結んだ後に枯れてしまうため、この子株を苗として再び畑に植えることで、次世代に繋いでいます。
子株は土とともにビニール袋に入れ、数週間大切に育てられます[6]。
その後、ある程度大きくなったところで、よく耕した畑に、苗を規則正しく植えていきます。
さて、ここでバナナの生育に適した環境についてご説明すると「一年中暖かい(最適気温:26〜30℃)」「降雨が一年中あること(100〜200mm/月 程度)」「台風の通り道でないこと」が主に挙げられます[6]。
気温でいうと、冬季でも15~16℃以上あることが望ましいです[7]。生産地として有名なフィリピンも含みますが、赤道をはさんで南緯30°から北緯30°の間がバナナにとって最適な生育環境です[5]。
3つ目の「台風の通り道でないこと」がなぜバナナの生育に重要なのか?これは畑に植えた苗の成長をもう少し見ていくと、より納得いただけると思います。
もう少し時計の針を進めますね。
バナナの芽は、収穫を終えたバナナの幹を切り倒すと、その横から新しい幹が出てきます。
畑に植付をした苗は、たっぷりの太陽の光と水の恵みを受けて成長していきます。
数ヶ月もたてば、仮茎(または偽茎)と呼ばれる、柔らかい葉が重なり合った部分がぐんぐんと伸びていきます。その高さゆえに、バナナは木になると思っている方がいらっしゃいますが、実際は高さ2~10メートルの多年生の草に実をつけます[5]。
木の幹に見えていたものは、実は軟弱な葉っぱの重なり合いだったのです。そのため、植物学的には野菜の仲間。バナナが野菜というのは、少し不思議な感覚ですよね。
そう考えると、先ほどの台風を避ける理由がお分かりいただけたのではないでしょうか。そう、単純に強風が吹くと倒れてしまうんですね。バナナは風の弱い山すそ、谷間、平坦地の栽培に適しているところから「谷間の植物」とも呼ばれています[7]。
その幹から約半年後、中心から筆先のような形をした花のつぼみが出て来ます。
やがてつぼみは成長し、幼果が現れます。上から1つずつ順々に咲いていくので、ステムの上段についている房ほど大きく育ちます。
さて、植付から6ヶ月ほど経過すると、蕾を包むための苞(ほう)と呼ばれる葉っぱが何枚にも重なり、ラグビーボールのような赤紫色のふくらみとなったものが垂れ下がるように現れます。しだいに、この苞が一枚ずつ外側にめくれていくと、苞の内側に小さなバナナの実とその先端の白い花が顔を出すのです。
1本の木(茎)には、約10房、200本のバナナが成るそうです[8]。
ちなみに小話ですが、バナナの実は最初下を向いていて、太陽の光に向かってだんだん上に曲がって成長するそうです[5]。
あの独特のカーブは太陽に向かって伸びた証しなんですね。
そして植付から9ヵ月ほどたつと、いよいよ収穫の時期です。
収穫は専用のバナナナイフを使って、一番下の房から順番にカットしていきます。このとき、二人一組でバナナに傷をつけないよう細心の注意を払って行われます[8]。
カットされたバナナは、まだ青くて硬いものですが、これはバナナが追熟するためです。
追熟とは、収穫後に一定期間置くことで甘さが増したり、果肉が柔らかくなること。収穫したての青いうちは、消化しにくいでんぷん(レジスタントスターチ)や、貯蔵型食物繊維イヌリンが多く含まれますが、熟すに従って、レジスタントスターチは消化しやすいショ糖やぶどう糖に、イヌリンはフラクトオリゴ糖から果糖に変化して、果肉は甘くなっていきます[9][10]。
ちなみに、収穫を終えたバナナの木(茎)は根っこから吸い上げた水分を蓄えています。天然の貯水タンクの役割を果たすので、次世代を担う子株を助けるために収穫後も親株の仮茎は残しておくそうです[8]。
まるで親株から子株への命のリレーです。
バナナは、人類最古の栽培作物とも言われています。
タネなしバナナが「偶然」のいたずらで生まれたそのときから、人間とバナナの長い関係は続いています。
はるか昔の人たちが、「偶然」の苗を大切に守ってきた風景は、今日も明日も世界のどこかで続いているのです。
〈参照・参考〉
[1]Consensus Document on the Biology of Bananas and Plantains (Musa spp.)
November 2009 Edition: OECD SHROB No. 48Publisher: OECD Environment Directorate, ParisEditor:
Authors: Spain and USA
[2]Denham, Tim P., et al. Origins of agriculture at Kuk Swamp in the highlands of New Guinea. Science.
2003, 301(5630), 189-193.
[3]小松かおり. 品種分化をめぐって: バナナの商品化と品種多様性: インドネシア・南スラウェシ
の事例から. 国立民族学博物館調査報. 2009, 84, 445-466.
[4]稲垣栄洋. 面白くて眠れなくなる植物学. PHP研究所, 2016, 205p.
[5]バナナ大学 WEBサイト「バナナの植物学」
[6]バナナ大学 WEBサイト「輸入過程全体」
[7]江口庸雄. バナナの栽培. 熱帯農業. 1958, 2(2), 74-78.
[8]株式会社ドール バナナにできること、ぜんぶ WEBサイト
[9]J van Loo 1, P Coussement, L de Leenheer, H Hoebregs, G Smits. On the presence of Inulin
and as natural ingredients in the western diet. Critical Reviews in Food Science and Nutrition.
1995, 35(6), 525-552.
[10]加藤陽治, 藤田美香, 浅利宇多子. 貯蔵および加熱処理に伴うゴボウのイヌリンの変化.
弘前大学教育学部紀要. 1993, 69, 131-135.
大手広告情報媒体企業勤務後、植物から特定成分を抽出しサプリメント会社に素材提供する食品メーカーに転職し、植物の持つ機能性成分に感動し多くを学ぶに至る。
しかし、ヒトの健康はサプリメントだけでは叶えられないと知り、健康に良い野菜作りを目指し、もやし・スプラウトの栽培企業に転職。低利益率のもやし業界に旋風を巻き起こす、日本初の機能性表示野菜第一号の「大豆イソフラボン子大豆もやし」を世にリリース。
この経験をもとに、生鮮野菜や果物の機能性表示届出をコンサルティングする技術を身に着け、2019年3月「野菜で健康研究所株式会社」を立ち上げ、全国の野菜生産者や業界団体に対しコンサルティングを行う。
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大手広告情報媒体企業勤務後、植物から特定成分を抽出しサプリメント会社に素材提供する食品メーカーに転職し、植物の持つ機能性成分に感動し多くを学ぶに至る。
しかし、ヒトの健康はサプリメントだけでは叶えられないと知り、健康に良い野菜作りを目指し、もやし・スプラウトの栽培企業に転職。低利益率のもやし業界に旋風を巻き起こす、日本初の機能性表示野菜第一号の「大豆イソフラボン子大豆もやし」を世にリリース。
この経験をもとに、生鮮野菜や果物の機能性表示届出をコンサルティングする技術を身に着け、2019年3月「野菜で健康研究所株式会社」を立ち上げ、全国の野菜生産者や業界団体に対しコンサルティングを行う。
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